退職後の雑感(604)

  「退職後の雑感、希望を語る言葉」

 ある落語家の「希望を語る言葉」より(一部引用)、・・・東京で2部上場に上がった大きな会社の社長さんとの話。
 「従業員3.000人、素晴らしいですネ、これを一人で築くとは。立派の一言です」。
 「いやいや、恥ずかしい。ちっともそんなことはありません。社員の皆さんが、私の3倍、働いてくれたおかげです。そして、応援をしてくれた多くのお客様のおかげだと思っています。私の力ではありません」。
 「大学は、どちらを出られましたか?」。
 「出てないです」。
 「高卒ですか?」。
 「人生は、学歴ではないと思う。情熱だよ、やる気だよ」。
 「社長は、普通の高校ではなかったでしょ」。
 「普通の高校です」。
 「いや、社長は、いつ会っても、腰が低いじゃないですか。低姿勢高校(定時制高校)でしょう」。
 彼は、高校3年間、勉強など、殆どしていない。毎日、喧嘩、喧嘩に明け暮れている。今でも、骨太の83Kgと言う、立派な体。負け知らずだった。カバンを持って高校に行った記憶がないと言う。毎朝、弟分が家まで来て、カバンを持って行ってくれたとのこと。3年間で、4回も、停学をくらっている。その社長さんが、50歳になって、同級生を集めて同窓会を開いた。発起人がその社長さんだった。
 ・・・これから、恩師の先生方がぞくぞくと入場する。その前に、発起人だから、一言だけ、この話をさせてもらいたい。私は、高校時代、喧嘩しかやらなかった男だった。今日は、あの時に殴った人も、沢山この会場に来てもらっているから、後で、一人一人に誤りに行くけれども・・・。
 卒業式のちょっと前、校長先生に、校長室に呼ばれた。あのハゲチャビンに。あの時、俺は、思った。
 「このハゲチャビンが、卒業式の前に、俺一人を校長室に呼んだかと。いい度胸をしているハゲチャビンじゃのお。今日は、サシで勝負じゃ。とことんくるわすど」と。校長室のとびらをガラガラと開けたら、「開けたとびらは、ちゃんと閉めにゃいかん」と言われた。
 「ようし、閉めた方がなぐりやすいが」。閉め終わったら、「君には、悪いが、この校長室のカ-テンを全部閉めてくれ」。
 「よ-し、とことんやる気でおるな」。カ-テンを閉めながら、
 「60を過ぎた老いぼれじいさんやらよ、先に1発を殴らせてやるから、そのお返しに、10発まとめてお返しをするでね」。ポケットに手を突っこんだまま、奥歯に力を入れて、
 「やってみらんか、ハゲチャビンが」と言わんばかりに、顔を前に突き出したら、校長先生が、「今、君の前に立っている男はネ、校長じゃない。一人の男だと思って話を聞いてくれ。この3年間、いろんなことを、君は、一生懸命やってくれた。先生方は、君の事で頭をかかえとったが、私は、違った。私は、君の事を評価しとった。この男は、凄い男だと。この誰にも負けない体力、こりゃ、日本一の体力を持っている男だと。この燃える様な情熱も素晴らしい。じゃが、今は、たまたま、この体力と情熱が、暴力の方に走っとるだけじゃと、私は、いつも、そう、思っとった。明日から君は、社会人だ。社会に出たら、君のその体力と情熱を暴力なんかに使ってもらいたくはない。君のその体力と情熱があれば、君だったら、どんな苦しいことがあろうが、必ず乗り越える事が出来るはずだ。この学年で、いや、この学校で、一番出世をする男は、君しかおらんと私は、信じとるぞ。頑張れ、さあ、卒業式に行こう」。話は、それだけだった。
 (卒業してから、この社長さんには、どうしよもない困難が待っていた。その度に、頭を寄切ったのは、校長先生の言葉だった)。「君のその体力と情熱があるんだったら、君だったら、どんな苦しいことがあろうが、必ず、乗り越えることが出来るはすだ。頑張れ、キバレよ、君は」。その校長先生の言葉が、いつもいつも、人生の応援歌となって、私を後押ししてくれた。だから、私は、一代で、こんな大きい会社を作ることが出来ました。永い間、校長先生を捜していた。一言、お礼が言いたかった。やっと見つかりました。89歳で、御健在だったんだよ、みんな。
 そう言ったら、それを聞いた同級生は、「オイも言われた」「オイも言われた」「オイも」「オイも」「オイも」と、皆、手が上がり、早い人は、入学して、10月の初めに、もう、校長室に呼ばれていて、一番最後が、そのどうしようもない、番長だった。だから卒業式のちょっと前になっていた。
 しかし、同級生は、「素晴らしい校長先生じゃっど、オイ、大きな拍手で迎えっど」と、同窓会は、盛りに盛り上がった。
 希望を語る言葉は、こんなにも人間を伸ばす力がある。どんな時代になろうが、常に心を積極的に持って行って、日々感謝歓喜に満ち溢れる気持ちで、常に自分自身に、勇気と希望の沸く言葉をどんどん見つけると、人生に素晴らしい出会いが待っている。

*再掲です。この内容、時々思い出しています。子どもに掛ける一言一言の言葉が、大きな意味を持つこと、あります。時に、一生を左右することも・・・。

 (令和5年11月4日、記載)



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